『MORI AND GINGA』は細海魚6年ぶり4枚目のソロ名義によるアルバムである。ジャケットの特徴的な線画は現代画家・山口一郎によるもの。これに呼応するかのように本作における細海の音楽は現代美術のようだ。誰も訪れることのないギャラリーに絵は一枚もなく、空っぽの額縁から微かに音楽が聴こえてくる――『MORI AND GINGA』はそんな作品だ。冒頭のM1「MACHIBOUKE」でガットギターが不器用そうに爪弾かれると、一聴してその和音が細海魚のものだと判る。<雪解け>を意味するM3「THAW」の美しいアルペジオ、目映いM4「SUNNY RAIN」からつづくM5「REMBRANDT KOUSEN」まで細海は多くを語ろうとしない。ようやく、ハンドベル・デュオBELLYLOVEによる美しい鐘の音が加わるM6「USUYUKISOU」で、音楽家は初めて私たちに何かを語りかけてくる。しかしあくまで微かな囁き声で……。

このM6を除き全ての楽器を細海が演奏している。ごく小さな会場で行なっているたったひとりのライブ活動での演奏をつうじて出来上がった曲をあつめ、2017年~’20年にかけてこつこつと細海の自宅スタジオで録り貯められていった。丁寧に紡がれた音は一貫してストイックで、あくまで平坦な印象に設えてある。しかしこれこそが、極度に無口な細海の発する最大限の詩なのだと言える。中でもM7「BIRTHDAY」では、愛する者への想いがこの平坦さによって逆説的に際立ってくる。それは、明日も変わらない日常でありますようにと祈りを込めて丹念に磨くテーブルの明度に似ているかも知れない。ラストはアルバムタイトルにもなっているM8「MORI AND GINGA #2」。ここに「#2」とあるのは、これに先立って同名の「MORI AND GINGA」を細海が参加しているWEBサロン『焚火社(takibisha.com)』で発表しているからである。

私たちは空っぽの額縁の前で耳を澄ませ目を閉じる。まぶたの裏側で視えた絵こそが、あなただけの『MORI AND GINGA』であり、ひとりの寡黙な音楽家からの手紙だ。

 

外間隆史 [未明編集室/焚火社]

 

 

MORI AND GINGA / SAKANA HOSOMI

PURE HEART LABEL

APHL0016

RELEASE DATE : 2020/6/1

 

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MORI AND GINGA / Sakana Hosomi

 

1 MACHIBOUKE

2 BLOW

3 THAW

4 SUNNY RAIN

5 REMBRANDT KOUSEN

6 USUYUKISOU

7 BIRTHDAY

8 MORI AND GINGA #2

 

Music by Sakana Hosomi(All Instruments)

 

With :

AI and ERI (HANDBELL DUO BELLYLOVE) : Track 6

 

Drawing by Ichiro Yamaguchi